日記(うんちく放題)
筑波嶺ゆ振りさけ見れば水の狭沼 水の広沼霞たなびく (長塚節)
狭沼=砂沼(下妻方面)で、土浦方面に広沼=霞ヶ浦 狭の対義で広沼としたのでしょう。
固有名詞を避けたことで筑波山から見える大小さまざまな湖沼の眺望として広がりが出ますね。
茨城県結城郡岡田村国生に生まれた歌人長塚節も、やっぱり筑波山に登っていたんですねー でも、どうやらくっきりした天気ではなかったようで、写実派の長塚節の事ですから霞は霞ヶ浦の掛詞だけではなくて、実際に霞がかかっていたのでしょう。
私が長塚節の歌で最も好きなのが
垂乳根の母が釣りたる青蚊帳を すがしといねつたるみたれども
かつての職業柄、教材に枕詞や掛詞の例題として頻繁に出題されていたので印象深い...というのがホントのところなのですが^^;
今回、筑波山に行く前に長塚節の生家を訪れたのですが、茅葺家屋独特の懐かしい香りと、当時のままの状態で生活しながら保存されていること、見学者の私たちを温かく出迎えてくれたことに感激致しました。
見学できるのは、客間として使われていた一室なのですが、きっと節が眺めていたであろう天井や障子や欄間を見ながら長塚節晩年の「鍼の如く」に収められた歌を反芻していました。
(1)垂乳根の母が釣りたる青蚊帳を すがしといねつたるみたれども
(2)小さなる蚊帳こそよけれしめやかに 雨を聴きつつやがて眠らむ
(3)蚊帳の外に蚊の声きかずなりし時 けうとく我は眠りたるらむ
これら歌は大正3年5月30日。東京神田の橋田医院から帰郷退院した翌日、激しい雨の夜を詠ったものですが、時系列にして読むと、入院生活の疎ましさから解放さた直後に
"すがしといねつ" + "たるみたれども" と詠んだのは...
今回長塚節の生家を訪れ、次のように感じました。
わざわざ"青"蚊帳と記したのは、急遽用意してもらった新品か新品に近い蚊帳を釣ってもらったのではないだろうか?当時は化学繊維などない時代ですから、純麻の蚊帳でしょう。
当日は大雨であったことを考えると、気温はもともと涼しかった。"すがし"と詠んだのは、病室ではなく実家の部屋に戻った安堵感と、鼻腔に感じた蚊帳の香りを織り込んだのではないだろうか?
せっかくの新品の蚊帳を釣ってもらったが、少したるんでしまった。そこに母の枕詞の垂乳根と"たるみ=垂"を掛けたのはたんに技法であり、主語は母ではなく蚊帳ではなかったのだろうか? 病室ではなかなか眠れずに睡眠薬なども処方してもらった節だったが、実家に帰れば少しは安らいだ眠りつけると思った。
そして、無味乾燥な病院の天井を見つめるより、たるんだ小さな蚊帳の空間の中に安堵を感じるが、雨音が耳に届きなかなか寝付けない。やがて雨音も小さくなってきた頃..."蚊の声"は、本来の蚊の羽音と、居間で話す家族の話声もかすかに聞こえていて、それらが聞こえなくなった(家族が眠りについた)頃にようやく自分も眠りに入った...と。
さて、現常総市国生(こっしょう)は、まるで時間が止まっているかのような田園風景です。そこから徒歩5分ほどの桑原神社を訪れたのですが、式内社であるというので期待していたのですが....
神社額はそれなりに立派でしたが、境内をコンクリートで舗装されてしまってちょっと残念でした。でも、参道の木洩れ日がとても爽やかで、生命の輝きに満ちているような空間でした...てな訳で。
国生の鎮守の森のすがしさに 輝き止る節の木漏れ日 (太輔)
という挙句にて、講義もどきの記事は休筆^^;
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